2016年3月31日木曜日

3/30 《ミナタンチャーム》毎日新聞 朝刊

被災地の女性支える手仕事

http://mainichi.jp/articles/20160330/ddm/013/040/011000c





被災地の女性支える手仕事

「ミナ・タン・チャーム」を作る(右端から反時計回りに)梅沢松子さん、西城いさ子さん、沼倉京子さんと野崎佳世さん=宮城県南三陸町の仮設住宅で
 東日本大震災後の被災地では、仮設住宅などに住む女性の自立や生きがい作りを支援しようと、多くの手仕事が生まれた。震災から5年が過ぎた今も続く活動もある。継続して販売できるよう、被災地をうたうだけではなく、品質の高さや付加価値にこだわった商品も出てきている。
     ●仮設住宅で製作
     宮城県南三陸町の仮設住宅の一室に、ミシンの音と笑い声が響く。ここで暮らす梅沢松子さん(65)と沼倉京子さん(82)、近所に住む西城いさ子さん(70)が集まり、熱心に手を動かしていた。沼倉さんは東日本大震災の発生時、海岸近くの結婚式場で津波に襲われた。「震災後しばらく悪夢にうなされたけど、針仕事をすると無心になって眠れた。今では生きがいです」と穏やかな表情で話す。
     3人は、ファッションデザイナーの芦田多恵さん(51)がデザインする動物のぬいぐるみ付きキーホルダー「ミナ・タン・チャーム」の作り手だ。芦田さんは2013年から、南三陸の被災女性に技術指導してチャームを製作してもらい、百貨店などで販売している。芦田さんのブランドの服作りで余った高級材料を使ったチャームは1個1万円以上するが、これまでに約4000個が売れた。常時十数人の女性が従事し、売り上げから経費を差し引いた金額を報酬として受け取っている。梅沢さんは「こんな華やかな仕事に携われるなんて思いもしなかった。続けられる限り続けたい」と目を輝かせる。
     芦田さんに女性たちを紹介したボランティア団体代表の野崎佳世さん(44)は、1995年の阪神大震災時、大阪に住んでいた。被災地のために何かしたいと思いながらも、3カ月の娘がいて動けなかったという。その歯がゆさから東日本大震災後、物資を集めて被災地に届ける活動を始めた。届けられた洋服のサイズを直したいという女性たちの要望を受け、ミシンを贈ったことが芦田さんの活動につながった。
     芦田さんは「被災者が作ったからではなく、良い商品だからと手に取ってもらいたい。厳しく検品し、作り直しをお願いすることも。将来的には南三陸の自立事業になれば」と期待を寄せる。
     ●アパレルとコラボ
    和気あいあいと刺し子の練習をする女性たち=岩手県大槌町の「大槌復興刺し子プロジェクト」事務所で
     岩手県大槌町では、東北に古くから伝わる手工芸「刺し子」の模様を入れた商品を製作、販売する「大槌復興刺し子プロジェクト」が被災女性を支えている。家や仕事を失い、避難所ですることがない女性に手仕事を提供しようと、ボランティアらが震災の3カ月後に始め、NPO法人テラ・ルネッサンス(京都市)が活動を引き継いだ。同町のシンボルであるカモメの柄を入れたコースターやTシャツのほか、無印良品やアパレルブランドとコラボレーションした商品をインターネットや百貨店で販売してきた。
     これまで約180人が作り手となり、売り上げは1億円以上。その約4分の1が作り手の収入だ。また、被災女性を現地スタッフとして雇用。実家と勤め先の工場が津波で流された佐々木加奈子さん(38)は、2年前に作り手からスタッフとなり、講習会で刺し子を教えるなど活動を引っ張っている。「おしゃべりしながら手を動かしていると嫌なことを忘れられる。人とのつながりが広がったのが何よりうれしい」と笑顔を見せる。
     昨年夏、名古屋市から大槌町に移住したプロジェクト代表の吉田真衣さん(33)は「震災は年々風化し、販売の場となる復興イベントも減っている。事業として永続させるためには、付加価値のある商品づくりや販路の開拓が必要」と課題も感じている。
     ●末永い活動目指し
    岩手県宮古市田老地区の被災女性らが作った「たろうベビーハンモック」=伊藤万菜美さん提供
     津波で家族を失った当事者が生み出した手仕事もある。岩手県宮古市の田老地区に住んでいた両親と祖母を亡くした久住智子さん(35)は、東京都内に住む友人のハンモックヨガ講師、伊藤万菜美さん(38)、ハンモックアーティストの山本忠道さん(33)ら5人で、赤ちゃんを包むスリング「たろうベビーハンモック」を被災女性に作ってもらう活動を震災の翌年に始めた。
     ハンモック作りを教えるワークショップを現地で開き、受注生産でこれまで約120個を販売。売り上げの約半額が作り手に渡った。
     津波で稲作ができなくなった農地で栽培されたオーガニックコットンを使うなど、材料にもこだわっている。伊藤さんは「赤ちゃんが成長したら遊び道具としても使える。作り手と購入者の交流も生まれており、命と命をつなぐ活動として続けていきたい」と話す。【野村房代】

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